相続人がいない場合/行方不明の場合

相続財産清算人について

相続人のいない方が資産を残して亡くなった場合、もしくは相続人全員が相続放棄をした場合、残っている相続人の財産は、誰も引き継ぐ人がいないので、最終的には国庫に帰属します。ただし、国庫に帰属させる前に、本当に相続人や遺産の全部を譲り受けた人がいないのか、被相続人と特別の縁故があった者がいるのではないかといった項目を誰かがきちんと調査、確定することが必要です。また、債権者がいた場合には、相続債権者の存否や相続債務の額等を確定し、相続財産をもってその弁済に充てる等の清算を行なうことが求められます。

相続を放棄すると、最初から相続人ではなかったことになります。しかし、相続財産(たとえば家や土地)が残っていた場合には、相続放棄をした相続人の管理下にあった相続財産の管理までも即座に放棄してしまうとなると、他の相続人や債権者の負担が大きくなります。そのため、民法では、相続を放棄した者は次順位の相続人が相続財産の管理を始めるまでの相続財産の管理を継続しなければならないと定めています。このため、相続放棄のときに相続財産を現に占有していた相続人は、相続放棄をしても、他に相続人がいない場合には、財産を保存し管理を継続する必要があります。この管理義務を終わらせるためには、裁判所に選任された相続財産清算人に当該相続財産を引き渡すことが必要となります。こういった問題に対処するために、相続財産清算人という制度があります。

また、被相続人に対し、貸金債権や損害賠償請求権などを有している債権者は、相続財産から支払いを受けることでしか自己の権利を行使することはできません。相続放棄をした者に対して請求することはできませんし、請求を受けた相続放棄をした者も相続財産を管理していたとしても処分することはできません。法定相続人全員が相続放棄をしてしまったような場合には、裁判所に選任された相続財産清算人に対し、自己の債権につき支払いを求めていくほかなく、このようなケースにおいても相続財産清算人制度の利用が必要となります。

相続財産清算人は、家庭裁判所の審判によって選任され、相続財産の管理と清算などを行います。通常は、被相続人の最後の住所地となる地域の弁護士が就任して相続財産清算人として、相続財産の管理等をする立場となります。そのため、相続財産を占有する者の財産管理義務は、この相続財産清算人が相続財産の管理を始められるように手続きをして引き継ぐことで終了します。

弁護士法人アルファ総合法律事務所の弁護士も、さいたま家庭裁判所や東京家庭裁判所から相続財産清算人に選任され、相続財産清算業務を多数行なっております。

相続財産清算人を選任するには

相続財産清算人を選任するには、被相続人の最後の住所地相続開始地を管轄する家庭裁判所に相続財産清算人選任の申立を行なう必要があります。

相続財産清算人選任の申立ができるのは、利害関係人又は検察官です。利害関係人とは、相続債権者、特定遺贈の受遺者、相続債務者、被相続人から財産権を取得した者、相続財産に属する財産の上に担保を得ている者、相続放棄をした者など亡くなった方に対して何らかの請求権を持つ者が該当するとされています。特別縁故者として、相続財産の分与を請求しようとする者も該当します。

相続財産清算人が選任されると、家庭裁判所は、まず相続財産清算人の選任の旨と併せて、6ヶ月以上の期間を定めて、相続人があるならばその期間内(相続人捜索期間)にその権利を主張すべき旨を官報公告します。この公告があったときは、相続財産清算人は、全ての相続債権者及び受遺者に対し、2ヶ月以上の期間を定めて、その期間内にその請求の申出をすべき旨を公告します。これは、亡くなった方の債権者や受遺者に対して名乗り出るように催告するものです。亡くなった方に対して債権を持っていた方は、この際に申し出をすることで、残っている財産の範囲内で弁済を受けられる可能性があります。
相続人捜索期間内権利主張期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、相続財産清算人に知れなかった相続債権者及び受遺者を含め、いわゆる失権効が生じ、相続人の不存在、債権の消滅というように権利関係が確定します。すなわち、債権等の届出をせずにこの期間が満了してしまうと、相続人・債権者・受遺者は権利を失うことになるので注意が必要です。

相続人捜索期間が満了すると、今度は「特別縁故者に対する財産分与」の申立期間(3ヶ月)が開始します。亡くなった方との特別縁故(被相続人と生計を同一にしていた、療養看護に努めた、資金援助をしてきた、事実上遺産管理をしてきた等)を主張したい方は、この期間内に申し立てをすることで、相続財産の分与を受けられる可能性があります。分与の可否・範囲については、調査の上で家庭裁判所が判断します。

このような手続きを経て、最終的に残余財産があった場合、これらは全て国庫へ引き継がれることになります。

不在者財産管理人について

遺産分割は、相続人全員で行なわなければならず、一部の相続人のみでなされた遺産分割協議は無効です。したがって、相続人の中に行方不明者がいる場合であっても、その相続人を除外して遺産分割協議をすることはできません。そこで、家庭裁判所へ不在者財産管理人の選任を申し立てることで、行方不明の相続人に代わって不在者財産管理人が協議に参加し、遺産分割協議を進めることができるようになります。

“不在者”とは、従来の住所または居所を去り、容易に戻る見込みのない者をいいます。行方不明といっても、1週間や1ヶ月程度では不在者とは認定されず、おおむね1年以上は行方不明である必要があります。例えば、以下のような場合に不在者と認定されます。

上記のような場合に不在者と認定されるのであり、簡単には認められるものではありません。
あくまでも、不在者が生きていることを前提として進める手続きとなります。もし、7年以上にわたり行方不明である場合には、失踪宣告の手続きを選択することも考えられます。

不在者財産管理人は、あくまでも不在者の財産を管理するための人であるため、遺産分割協議を行い、協議に同意するような行為を当然にはできません。協議に同意をしたり、財産を処分したりする行為を行なうためには、別に「権限外行為許可」の手続きを行なう必要があります。遺産分割協議への参加や同意が必要であると予めわかっている場合には、権限外行為の許可申し立てを不在者財産管理人選任申し立てと同時に行うとスムーズです。ただし、不在者に不利な法定相続分以下の遺産分割協議となっているような場合には、家庭裁判所の許可を得ることができない可能性もあるため、注意が必要です。

不在者財産管理人を選任するには

利害関係人(不在者の配偶者、相続人にあたる人、債権者など)及び検察官が申立人となり、不在者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所へ不在者財産管理人選任の申し立てを行い、家庭裁判所に選任してもらいます。申し立てる際、不在者財産管理人候補者を記入することもできますが、一般的に利害関係のない第三者(弁護士等)が選任されます。選任された不在者財産管理人は、不在者の財産を調査し、裁判所へ報告を行ないます。

弁護士法人アルファ総合法律事務所では、不在者財産管理人選任申立の対応を多数行なっております。不在者の戸籍、不在の事実を証する資料、不在者の財産に関する資料及び申立人の利害関係を証する書面等、必要資料も多いため、弁護士等へ依頼されることをお勧めします。